東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11793号 判決
一 原告が本件特許権を有すること、本件特許出願の願書に添附した明細書(ただし、補正後のもの)の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右争いのない特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)の記載を総合すれば、本件発明の構成要件は次のとおりであると認められる。
A フレームを有すること
B フレーム上に設けられタイヤを車輪リムに取付けまた取外すための位置に車輪リムを固定保持する台部材を有すること、
C 車輪リムに対してタイヤ縁部を漸進的に取付けまた取外すためにタイヤ工具を車輪リムのまわりに回動せしめる回転可能のタイヤ工具駆動部を有すること、
D フレーム上に装架され車輪リムからタイヤの第一の縁部をゆるめるために少なくとも車輪リムの一部を越えて往復運動する下側縁部取外しシユーを有すること、
E 下側縁部取外しシユーと対抗して設けられタイヤの対抗する第二縁部を車輪リムからゆるめるために少なくとも車輪リムの一部を越えて往復運動する上側縁部取外しシユーを有すること、
F タイヤ工具駆動部を作動させまた上側縁部取外しシユー及び下側縁部取外しシユーを往復運動させる単一動力源を有すること、
G 動力作動式タイヤ取替えスタンド装置であること、
二 被告ら装置の構造が別紙物件目録(一)及び物件目録(二)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
三 そこで、本件発明と被告ら装置とを対比する。
1 前記確定した特許請求の範囲の記載に前顕甲第二号証の記載を総合すれば、本件発明の構成要件Fにいう「単一動力源」とは、タイヤ工具駆動部を作動させる動力源とタイヤを車輪リムからゆるめるに当たり上側縁部取外しシユーと下側縁部取外しシユーとの双方を作動させる動力源とは同一であること、換言すれば、本件発明において動力源は一つであり、この一つの動力源がタイヤ工具駆動部を作動させ、かつ、前記上側縁部取外しシユーと下側縁部取外しシユーのそれぞれを作動させる一つのピストン・シリンダ装置であることを認めることができ、これに反する証拠はない。
2 しかして、被告ら装置の構造を示すことにつき当事者間に争いがない別紙(〔編註〕省略)物件目録(一)及び物件目録(二)記載によれば、被告ら装置は第一シリンダ84及び第二シリンダ80すなわち二つのピストン・シリンダ装置をもつてその動力源とする構成をとるものであること、換言すれば動力源は二つであることを認めることができ、してみれば少なくともこの点において被告ら装置は本件発明の構成要件Fにいう「単一の動力源」なる構成を欠くことになる。
3 原告は、被告ら装置の作動からすれば、第一シリンダ84と第二シリンダ80は油圧により連動するのであつて、二つのシリンダは合わせて一つの動作しかしていないとし、これを理由に、被告ら装置においては第一シリンダ84が単一動力源であり、本件発明における単一動力源に相当するから、被告ら装置が右のように二つのシリンダ装置を備えていても、本件発明の構成要件Fを充足する旨主張する。しかしながら、被告ら装置の構造を示すことにつき当事者間に争いがない別紙物件目録(一)及び物件目録(二)の記載と本件口頭弁論の全趣旨によれば、タイヤ縁部取外しシユーについて、被告ら装置の第一シリンダ84は、ピポツトピン77を中心としてメーンレバー93を回動させ、コラムシヤフト連結部107を上下動させることにより上側(縁部取外し)シユー122を上下に駆動させる駆動源として作動し、第二シリンダ80は、その一端部に下側(縁部取外し)シユー72を取付けた下側シユーアーム74をその他端部を中心として回動させることにより下側(縁部取外し)シユー72を上下に駆動させる駆動源として作動するものであり、このように、第二シリンダ80はそれ自体独立した動力源であつて、その駆動源としての分担も第一シリンダ84のそれとは異なつており、すなわち第一シリンダ84と第二シリンダ80とは油圧によつて連動する構成をとるものではあるけれども、第一シリンダ84は上側(縁部取外し)シユー122を、第二シリンダ80は下側(縁部取外し)シユー72をそれぞれ上下に駆動させるものであつて、第二シリンダ80が第一シリンダ84に従属するとの関係にあるものではないことを認めることができ、これに反する証拠はない。したがつて、被告ら装置において、その第一シリンダ84をもつて本件発明における単一動力源に相当するとすることはできない。よつて、原告の右主張は採り難い。
4 原告はまた、本件発明においては、タイヤ縁部取外しシユーの復運動についていえば、単一動力源がシユーの戻りを可能にする状態をつくり出すことを意味するのであつて、単一動力源が駆動源としてシユーを往方向及び復方向に運動させることを要するものではないところ、被告ら装置も復運動については単一動力源である第一シリンダ84の空気が排出され、かつ第二シリンダ80のピストンの動きにより第一シリンダ84が動かされてシユーの戻りを可能にする状態がつくり出されるので、両者の間に差違はない旨主張するけれども、前顕甲第二号証を仔細に検討するも本件発明においてシユーの復運動についての原告の右主張を肯認することができず、却つてさきに認定したように、本件発明において動力源は一つであり、この一つの動力源がタイヤ工具駆動部を作動させ、かつ、上側縁部取外しシユーと下側縁部取外しシユーのそれぞれを作動させるものであるから、このことから、本件発明において右単一動力源が駆動源として右二つのシユーを往方向及び復方向に運動させるものというべく、換言すればシユーの復運動について単一動力源が単にシユーの戻りを可能にする状態をつくり出すことをもつて足るというにとどまらず、能動的にシユーの戻りを行うべく復方向への運動の駆動源として作動するものと認めることができ、してみると、これが認定とは異なる解釈を前提とする原告の右主張は結局採用し難く、また、原告は、仮に本件発明の単一動力源が駆動源としてシユーを往方向及び復方向に運動させるべきものと解すべきものとしても被告ら装置においても単一動力源である第一シリンダ84が動力源としてシユーを往方向及び復方向に運動させるのであるから、両者の間に差違はない旨主張するが、この主張は被告ら装置の第一シリンダ84のみが被告ら装置における動力源であつて、本件発明における単一動力源に相当するものであることを前提とするものであるところ、前記説示のとおり、被告ら装置における動力源は第一シリンダ84のみでなく、第二シリンダ80もまた動力源であつて、第一シリンダ84をもつて本件発明における単一動力源に相当するものとすることはできないのであるから、右主張もその前提において既に失当で、採用することができない。
5 右のとおり、被告ら装置は、少なくとも本件発明の構成要件Fにいう「単一動力源」なる構成を欠くものであるから、本件発明の技術的範囲に属するものとすることはできない。
四 よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。
動力作動式タイヤ取替えスタンド装置において、フレーム11~15と、フレーム上に設けられタイヤを車輪リムに取付けまた取外すための位置に車輪リムを固定保持する台部材16と、車輪リムに対してタイヤ縁部を漸進的に取付けまた取外すためにタイヤ工具66を車輪リムのまわりに回動せしめる回転可能のタイヤ工具駆動部70、71と、フレーム上に装架され車輪リムからタイヤの第一の縁部をゆるめるために少くとも車輪リムの一部を越えて往復運動する下側縁部取外しシユー30と、下側縁部取外しシユーと対抗して設けられタイヤの対抗する第二縁部を車輪リムからゆるめるために少くとも車輪リムの一部を越えて往復運動する上側縁部取外しシユー32と、タイヤ工具駆動部を作動せしめまた上側および下側縁部取外しシユーを往復運動せしめる単一動力源12、40とを含むタイヤ取替えスタンド装置。